生酒と火入れ酒
日本酒は酵母菌で発酵し造られますが、「火入れ」と呼ばれる加熱処理が加えられると、酵母菌がいなくなり、発酵が止まり味わいを一定に保つことができます。また、発酵を止めるのと同時に、火入れには殺菌の目的もあります。日本酒にとって「火落菌」と呼ばれる乳酸菌は大敵で、火落菌が日本酒に付着すると味わいが大きく損なわれてしまうため、火入れをすることで、この火落菌を死滅させるのです。通常の日本酒の場合、お酒をしぼってから貯蔵する前と、瓶や容器に詰めて出荷する前の二度火入れが行われます。
なお、火入れと聞くと、日本酒を直接火にかけて沸騰させる宴会の余り酒燗冷ましをお考えになるかも知れませんが、そうではなく、簡単にいうと湯煎で60度から65度程まで30分程度加熱する方法や専用の機会で温度をかけたら速やかな冷却処理をして大事な風味を保つのです。ちなみに火入れのタイミングで言い方も異なります。生酒は製造から出荷までの過程で一度も火入れを行わない日本酒でこの後の表記と言い分けるために生生と表現することもあります。加熱処理をせずそのままの状態で蔵を出る為フレッシュな若々しい味わいが楽しめます。ただ生酒は瓶に詰められた後も品質が変わりやすくおいしく飲むためには冷蔵庫保存がおすすめで開栓後は、なるべく早く飲み切ることが必要です。
火入れ酒の代表格「生詰酒(なまづめしゅ)」というのがあります。
出来上がってから貯蔵する前に火入れを行い、出荷前には火入れを行わないため、生酒同様にフレッシュで爽やかな味わいが特徴ですが、生酒より比較的酸味が落ち着いていて、口あたりはまろやかです。また、一度火入れをして発酵を止めてから貯蔵しているため、生酒と比べると品質が安定しています。
秋になると、「ひやおろし」といった日本酒を聞くことが多いでしょう。ひやおろしは春に造ったお酒に一度火入れを行い、夏の間に熟成させて秋に出荷されるもので、これが生詰の一種です。冷や(生)のまま、卸す(出荷する)という意味で「ひやおろし」、火入れのタイミングで秋上がりと表記を分ける蔵もあります。